おかしいよね。
傷つくよりも、君に会えないほうが
怖い・・だなんてさ。
私、信用してないはずなのに。
おかしいなぁ。
ブロッサム。
―第10話
きつすぎる。
私は超マッハで自転車をこぎながら、
このざぶんざぶんと降ってくる雨と戦っていた。
こんな恥ずかしい思いをして、
ドギツイ赤のレインコートなんて着てるのに、
はっきり言って、この雨には
完敗している。
わずかな隙間から入り込むのだろう。
レインコートの下の服は
びっしょりだ。
こんな天気だから人がまばら
だったのは不幸中の幸いだったけども。
「・・・っ・・・はぁはぁはぁっ・・・
ついた・・・っ」
私は肩で息をしながら、
自転車から降りる。
服が雨を吸い込んでいる為、
まるでウェイトをつけて運動している
かのようだった。
目の前にそびえ立つのは
我が高校である。
実はあれだけ意気揚々と飛び出して
おきながら、彼の家を知らないと言った
アホブリでありまして。
(いや、冷静に考えたら知るわけ
ないのだけども。)
携帯番号も、携帯を日頃学校に持っていかない、
という良い子ちゃん振りが仇となり、
知るはずもなく。
だから学校に来たのは、
最善にして最終のプランなのだ。
彼は一応生徒会長なのだから
もしかしたら、学校にいてくれるかなーと
期待したもので。
もし、いなくても先生は土曜日は出てきているから
住所を聞けばいい・・・という
いつも使わない頭を
フル回転させ、策を打ち立てたわけであります。
(・・・・できれば、家にいて欲しい。)
私はそんなことを思いながら
彼の靴箱を探す。
学校にいられては、逃げられるかもしれないし、
邪魔が入ることも予想される。
だけど、家ならアスランは逃げる事ができない。
私が外で待てばいいだけの
話なのだから。
かたん・・
アスランの出席番号を見つけ、
彼の靴箱を開ける。
そこに置かれていたのは、
運動靴とスリッパで・・・・
「・・・よかった・・いない。」
その事実に私はほっと胸を撫で下ろした。
「?」
びくっ
後ろからかけられた声に
私は背中を振るわせる。
振り返ると・・・・
「・・・せ・・先生!」
なんてグッドタイミングなのだろう!
我が担任がいらっしゃった!
「・・・・なんだ・・・その趣味の悪い
レインコートは・・・」
しげしげとこちらを眺めて
呟くおっさんに、
(ほっとけ!!!中年独身親父!!)
と心の中で暴言をあびせつつ、
笑顔を作る。
「すみません、実は先生にお伺いしたい事が
ありまして。」
「?・・・なんだ?」
「アスラン・ザラの住所を知りたいんですけども。
彼、財布を忘れて帰ってちゃって・・・」
「財布?・・・ザラがそんなに抜けてるとは・・・意外だな。」
顎に手をあて、感慨深そうに
そんなことをつぶやく先生に私は痺れを切らす。
(こちとら、急いどるんじゃあ!!ぼけぇえええ!!!)
・・・口には出しませんが。
「え・えぇ!・・ですから、色々困ると思うんで、
届けようと・・・」
「そうか。それはご苦労だったな。
・・・しかし、今は個人情報の漏洩とか厳しくてな・・・。
ザラは、ザラ財閥の御曹子だしなぁ・・・。
・・・そうだ!先生が連絡しておこう。」
先生は、財布を預かる。とばかりに
私に向かって手を出す。
やばい。
それじゃ意味ないんだって!!!
仕方ない。
この手は使いたくなかったが・・・
「せ・・・先生!そこらへんの心配は要りません!!
私は・・その・・一応ザラ君の恋人なんで!!」
そのカミングアウトに、先生は目をまんまるに
見開く。
・・・・ありえないってか?
ほっとけ!!
どうせ、私は平凡な顔ですよ!!
「・・・・・・そう・・なのか・・・。
・・・まぁ、ザラがこの頃お前にちょっかいばかり
出していたしな・・・。」
こくこくこくっ
私は先生の言葉に
激しく頷く。
ここで連絡でもされてみろ、
私の計画はおじゃんだ!!!
「・・・解った。ここで待ってろ。そのびしょびしょ姿で入られたら
困るからな。・・・・・住所・・・と簡単な地図書いてやる。」
そういうと、先生は職員室に駆け足で
戻っていった。
「・・・・・私ストーカーの才能あるかもなーーー・・・・」
自分で決めて実行したことだが、
溜息を吐きたい気分なのは割愛して欲しい。
でん!
・・・・いや。違う。
ででででででででんっ!!!
て感じだ。
私は目の前にそびえ立つ、
大豪邸に意識を遠のかせていた。
広い・・・大きい・・・。
あれだ。
よく洋画で見るお城だ。
ザラ財閥が、すごいことはもちろん知っていたが、
こう目の前に突きつけられる・・のとではだいぶ違う。
「本当にお坊ちゃんなんだ・・・」
いや・・・知ってはいたが。
なんだか、
今さらではあるのだが、
身分が違いすぎやしないだろうか。
ぱんぱんっ
私は思いっきり頬を叩き、
少し逃げ腰になる気持ちに、カツを入れる。
謝って・・・話してくれたら話して・・・
それでマッハで帰る!
よし!
私はそれだけ頭でシュミレートすると、
デカイ呼び鈴のボタンを鳴らした。
・・・・・柵から家までは相当
距離がある。
自転車持ってきてよかった・・・。
『はい、どなた様でしょうか。』
傍らにあったスピーカーから
若い女の人の声がする。
メイドさんだろうか・・・。
スピーカーの上に備え付けられた
カメラがこちらを向く。
・・・うわ・・・ハイテク・・・。
私は少し緊張しながら
口を開く。
「え・・・えっと・・・・・・・・と申します。
アスラン・・君と面会したく・・参上いたしました。」
・・・なんかおかしいな、この日本語。
『承知いたしました。少々お待ちくださいませ。』
「あ・・はい!ありがとうございます!」
私は、そう告げられてから
大人しく待つ。
その間も強い雨は降り続け、
私の頭や肩・・・など強打していく。
・・・・今は自転車に乗っていないからかな・・
なんだか寒い。
『・・・・・・様・・』
「あ。はい!」
2.3分ほどだろうか、それくらい待つと
スピーカーから名前が呼ばれた。
『・・・大変・・・申し訳ありませんが・・・
アスラン様が・・お会いしたくない・・と。』
「!?」
メイドさんのすまなそうな声に
私は目を見張った。
・・・確かに、これは想像の範囲内だ。
範囲内だが・・・。
きりきり・・・胸が痛んだ。
「・・・解りました。」
静かに私は応答する。
それにメイドさんが安堵したのが
伝わってきた。
しかし、私は気にせず、
言葉を続ける。
「では会う気分になられるまで、ここでお待ちしますので、
伝達よろしくお願いします。」
『え・・・え・・・えぇ!?』
こういう状況はイレギュラーなのだろうか。
声だけでも、メイドさんが困ったのがわかった。
『いえ・・・で・ですがっ!』
「あと一つ、『なめんじゃねぇ』って言っといてください。」
『・・・・・っっ!!!』
あたふたするメイドさんを他所に、
私はその場にどかっと座り、
天から降ってくる雨を受けながら
(・・・なんかお坊さんの修行みたいだな・・・)
なんて呑気な事を考えていた。
ねくすとすとぉりぃっ→
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楽しくなってまいりました。
(それだけかいっ)
2007/09/23
更新日 2007/12/12 惶月 奏(おうづきかなで)