人は傷つく事が怖い。

だから、いつもリスクの
少ない道を選ぶ。


私はずるいね。


貴方の気持ちが嘘だった時怖いから、
と言って

受け入れなかったくせに

貴方を拒否して、
完璧に遠ざける事もしなかった。


リスクを受け入れないで
おきながら、

貴方を手放すこともしなかった。



本当に馬鹿だ。

手放す事が結局は出来なかった
時点で、


私の気持ちなんて、
考えなくても解ったのに。















ム。
             ―第9話













ざあああああっ・・・


外はバケツをひっくり返したように
大粒の液体達が地面を潤していく。


今日は土曜日。

学校は週二日制のため休日。


この雨は

私の心境なのだろうか。

それとも彼の?





まだ昼過ぎだというのに
外は薄暗い。

私はベッドに腰かけ、

カーテンの隙間から見える
外をぼんやり見詰める。



昨日の後遺症なのだろうか。

彼の言葉や強い眼差しや、
あの傷ついた表情が忘れられない。

目の裏から離れてくれない。




そのお陰で昨日
眠れなかった。


「・・・・どうしてくれんのよ・・・」

自嘲気味に笑いながら
ぽつりと、いつものように彼に非難を浴びせる。


だけど、もう彼が私に眼差しを
向けてくれる事はないかもしれない。


教室で隣の席に座っても

始終、私に話しかけたり、
私の気を引こうと視線を送ったりしてくれないだろう。



・・・・それでいい。


私はその言葉を心の中で
繰り返す。

そう、それでいい。


もうあの奇行に満ちた
行動に振り回されなくて済むのだ。

彼のファンクラブの人たちから
嫌がらせも受けずに済む。

彼のせいでギクシャクしている
友達とも、またうまくやれるかもしれない。


平和な生活が戻ってくる。

それこそ、私の望んでいた
ことじゃないか。


彼のいない世界。

それが私の世界で、
私が恋焦がれていたものだ。


・・・・・・なのに。

それなのに、


どうして、こうも悲しいのだろう。

胸が張り裂けそうになるくらい
苦しいのだろう。


ぼろぼろと瞳から
大粒の涙が溢れてくる。

昨日からずっとこうだ。


ケーキショップから帰ってきてから
冷静に状況を飲み込むことが
できればできるほど、

涙が溢れてくる。


お陰で目は赤く腫れていて、
家族と顔をあわすことすら出来ない。

折角の休日だと言うのに
引きこもりだ。



彼を好きなのか。


そう尋ねられたら
未だに答えを出せない。


だけど、

だけど



――――― 恋しい。





今すぐ会いたい。

今すぐ顔が見たい。

今すぐ声が聞きたい。



会ったって彼は、もう私を受け入れてなんて
くれないのかもだけど。

今更、調子が良すぎるって
思われても、当然だけど。


だけど・・・






逃げてれば、傷つかなくて済む。

だけど、逃げてばかりじゃ、
何も手に入らない。

傷つく事を恐れてばかりじゃ、
何も変われない。


・・・そうだよ。

怖い事は傷つく事じゃない。


傷はいつか癒える。


本当に怖いのは、
いつか今を振り返ったとき、

心の底から今の事を後悔して、
戻れない時を思い続けることだ。




「・・・・・・・冗談じゃない。」


人生80年。

私にはまだ云十年と残されているのよ。

それなのに、こんな強烈な
後悔を残していいのか。

いいわけがない。





100均でお母さんが買ってきた
どぎつい赤のレインコートを棚から出す。

『絶対に着ない!!傘で十分!』
って豪語してたけども、

まさかこんな時に
出番が来るとは・・・


私は防水してくれるだろうビニールバックに
携帯と財布と自転車の鍵を放り込む。



服は家用のよろよろ普段着だが、
レインコートを着るし、

今からデートしに行くわけじゃない。

いわば戦いだ。

傷つく事が解りにわかっている
・・・戦い。




だけど、今は傷つく事は
怖くない。

むしろ晴れ晴れしい気分だ。



とにかく目的は彼に謝る事。

それだけだ。


それによって、さらに彼を傷つけてしまうかも
しれない。

だけど、このままよりも
行動したほうが絶対に良いに決まっている。




私は、どぎついレインコートを着込み、
季節はずれなビニールバックを肩にかけ、

意気揚々と玄関を飛び出し、

自転車に飛び乗った。





目的地は、

もちろん


アスラン・ザラ!







     ねくすとすとぉりぃっ→


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ちょっとは、関係が
展開してくれるといいなー・・とか思いつつ
書いてます。

全ての話しに共通する事ですが・・・
・・・展開遅すぎだよ、自分。

そろそろへタレを返上せねばっっ!!
(照れて濁しちゃうんです)

すみません。頑張ります。






2007/09/23
2007/11/21  惶月 奏(おうづきかなで)